詩のようなもの21

●電話●

 

 電車を降りて改札に向かう途中、君に電話をかける。
 コール数を数える時、いつもは気にならない足音の数々が大きく聞こえることに気付いた。
 君はまだ出ない。
 ひとつ。
 ふたつ。
 みっつ。
 よっつ。
 君が出るのを待っている。
 いつつ。
 むっつ。
 ななつ。
 君は今何をしているのだろうか?
 やっつ。
 ここのつ。
 とう。
 自然と僕は電話を切った。
 これ以上は意味がないと思って。
 多分君は出ないだろう。
 久しぶりに声を聞きたかったのだが。
 もう電話に出ないのだろうか?
 足音が足早にそれぞれの場所に向かっている。
 ばらばらの思いがまるで一つの音楽の様に奏でる駅の改札で僕は規則正しい電話の呼び出し音をいつまでもいつまでのリフレインした。
 この電話。
 小さい。
 四角い。
 この薄っぺらいものだけが。
 今君と僕をつなぐ細い糸なのだ。
 何とも心もとない。
 もしもこれが壊れてしまえば、僕らは。
 多分2度と会えない。
 もし電話帳から僕の番号を消してしまったら、僕らは。
 それきりだろう。
 それがこの時代のつながり。
 気の迷いや忙しさが、人と人とのつながりを希薄にしていく。
 僕らの時代のコミュニケーションはこの巨大な駅に一人として顔見知りを見つけられないのだ。
 それを身にしみて感じる時、僕は時々無力感を感じる。
 何もできない。
 僕は電話を強く握った。