詩のようなもの17

●旅のはじまり

 


 
 ターミナル駅の近く。
 街の光が僕にはどこか遠くに見えた。
 そこにいるはずなのに。
 遠い。
 今年の秋は短かった。
 夏の湿気の多い暑さが、台風とともに過ぎた後、やって来たのは季節外れの冷気だった。
 冬のはじまりの様な九月の終わり、僕の旅が始まった。
 それは果てしのない散歩道の話。
 どこに行くべきか。
 何を求めているのかすらわからない一人旅。
 この世界に自分が不似合いだと悟った時にたぶん人は旅に出る。
 自分に似合う場所を探して。
 ここではない。
 どこかにあると言うそこへ。
 旅路はいつも冬だ。
 ここはいつも寒く暗い。
 旅とはいつもそういうものなのだろうと思う。
 たくさんの本を持って、何かを知ったような気になってみても、何一つモノになどなっていない。
 ここからはひとり旅だ。
 誰もが孤独な荒野を、冷たい夜の森を、一人で歩いて行くのだ。
 まるで、それが芸術であるかのように。
 僕に成せるだろうか。
 この道の果てに何かを手に入れられるだろうか?
 わからない。
 それでも。
 もう。
 動き始めたのだ。
 それだけは確かで。
 それだけは自分の中で決めたことで。
 だからこそ、振り返りはしない。
 この道を歩いて行くのだと。
 この夜に誓う。