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詩のようなもの14

白Ⅱ

●走り出す時●

 

 新しい靴に足を入れた時、確かな予感があった。
 私はその感覚を言葉にできなかったから、代わりに自分の鼓動に従う事にした。
 新しい靴を履いたまま、私は会計を済まし、そのまま古い靴を鞄に入れて店を出た。
 と、その瞬間。
 走り出した。 
 この靴は何か私に魔法をかけたように、鼓動を早くさせた。
 ドクドクとなる心臓の音が私に言う。
 走れ。
 走れ。
 走れ。
 ちょうど雨が上がって雲の間から晴れ間が見える。
 歩く人たちは傘をたたんでいる。
 程よく人がいる。
 けれど走るのに邪魔ではなかった。
 私は走った。
 夏が終わる九月の中旬。
 湿度が下がり、空気が少し冷たくなるこの時期。雨上がりの気分のいい空気を思いきり吸い込んで走る。
 少し濡れた肌に風が心地いい。
 走ると言うのは。
 走り出すというのはこんなにも。
 気分がいい。
 走れ走れ走る。
 かたいアスファルトを強く踏み込み。
 腕を振って、足を前へ、前へ、前へ。
 先へ、先へ、先へ。
 夏の終わりに幕を引くように。
 私は全力で走った。