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「パブリックエネミー」デビーク 上

間抜けな顔のマスコットが描いてある。普段なら気にも留めないが、こうも血塗れだと流石に気にもなる。
そんなマスコットを横目に二重になっている扉を順に開いて入ると、内も負けじと血塗れだった。

 


(エリア)
(大丈夫)
慣れたわけではないけど、ほんとに大丈夫だった。答えながら内を見回す。
やたらと明るく、白い内装に不釣り合いな、金属丸出しの機械が並び、それらをベルトコンベアーやら何やらが繋いでいる。中にはプールみたいのや、長い箱みたいのもあって、そこに張り付くみたいに人の死体が散らばっていた。
正確な人数はわからない。大半はズタボロで、ここからでは性別も人種もわからなかった。ただ衣服らしい布が二種類、白い作業着と紺色の制服はわかった。
「悲惨ね」
呟きながらそれらを避けながら進む。
(最初の通報らしきものが一日前、それから地元の警察が駆け付け、応援が来て、そのまま)
(全員が連絡を絶った)
(そうです。どうなったのかは、見ての通りですが)
(どうしてこうなったかはわかってない?)
(一応は毒ガスの発生ということで隔離してますが、原因はわかっていません)
(それを調べるのが今回の指令?)
(そういうことです。今回は正体不明で、田舎とは言え警官隊を退けてます。かと言ってテロなどのターゲットになるような所でもありませんし、地元の古い伝承なんかも確認できてません)
(最後の必要?)
(必要というか、足りないです。相手の正体が不明過ぎて何処の部署の担当なのか、上では決められなかったみたいなんです。唯一の判断材料が、警官が悲鳴の前に呟いた化物の一声だけでは)
(まぁ、そういうのの偵察ばっかやってるけどね)
(すみません)
(謝らないでよイゼベル。イゼベルが悪くないのは知ってるよ。それにさ。そう言うのは、殺された彼らには関係ないでしょ?)
(そう、ですね)
話ながらも警戒しつつ歩いて、一番奥まできた。
(そこのドアに入ってください。先ずはパソコンにアクセスして下さい。監視カメラも含めて外部との繋がりがないので直接アクセスしないといけないんです)
(了解)
答えてドアを開くと、その向こうも血塗れだった。 きっとむせかえるほど血生臭いだろう。だがこの体はそれを感じない。それは、良いことだけど悲しかった。
廊下を進むと、程なくして『管理オフィス』のドアの前についた。
(ここです)
言われて入ると、中は血塗れではなかった。
整然と並ぶパソコンは場違いなほど綺麗で、まるでオモチャだ。
(エリア、お願いします)
(わかった)
答えて席の一つに座る。イスを軋ませながらパソコンを立ち上げる。
(指示しますからその通りに)
(わかってるって)
イゼベルの指示通りにキーボードを打ち込む。
画面が切り替わって、監視カメラのファイルを映し出した。その中の一つを選ぶ。
(あの)
(何?)
(いえ、その、無理に見る必要はないですよ)
(え、必要でしょ?)
(そうですが、確かに映像を取り込むには現状、この目を、カメラを通して取り込まないといけません。ですが、そのカメラだけを残してあなたの意識を切ることもでぎます)
(……大丈夫だよ。今更だし)
(そう、ですか)
(ありがとエリア。だけど、見ておきたいの)
(……わかりました)
(うん…………そうか、私がやらないといけないのか)
変な感じになりながらキーを叩く。
写し出され映像は思いの外クリアだった。音はない。
場所は先ほど通った辺りだ。まだ赤くなく、人々も生きて働いていた。
暫くして奥の、ここに繋がるドアが開いて男が飛び出してきた。そしてドアが閉まる前に、影が追って飛び出してきた。
最初の一人が殺された。飛び出してきた男だった。
影が重なったかと思ったら血を吹き出して倒れた。
回りが気が付いて顔を覗かせてざわつく。
そして次が殺された。今度は反対側の、私が入ってきた方の一人だった。
パニックが起きた。
騒ぎ逃げ出す人々、だけども死体に近づけなかった。さっきまで生きていた顔見知りの死に恐れを成して、その先の出口を封じられてしまっていた。ただ隠れ、狼狽える人々を影は次々に殺していった。そして最後には、影と流血しか動かなくなった。
(相手が速すぎます。ちゃんと取り込んでも輪郭がわかるかどうか)
イゼベルの声が遠い。
ただ、殺す影よりも殺される人達をぼんやりと見ていた。
画面は進んで警官達がやって来て、同じように殺されて行く。咄嗟に銃を抜いた者も、その手首を切り落とされて絶叫して、その間に殺された。肩の無線機に何かをまくし立ててる者も、次には後頭部が大きく削られた。
(エリア!)
「え?」
いつの間にか、映像は終わっていた。
(本当に大丈夫ですか?)
「うん大丈夫だよ。ただねぇ」
(ただ?)
「何てんだろう。機械の目で見てるからか、リアリティーが無くてさ」
(……続行が困難ならば中止もできます)
「大丈夫だって」
(エリア?)
(心配してくれてありがとう。でも本当に大丈夫だから、やれるよ)
(……わかりました。映像からは相手の正体まではわかりませんが、まだ外には出ていないみたいです)
(なら、探すの?)
(そうなりますが、その前にいくつか調べたいです)
(了解。引き続き指示してね)
あれからいくつものファイルを覗いた。
途中でキーボードを二枚壊したけど、それ以上のイベントもなかった。
画面に出るのは訳のわからない数字や単語ばかりで、見ているだけの私は退屈だった。
退屈、と感じてしまうのは、私が普通じゃなくなってるのだろう。
(これ、かもしれませんね)
イゼベルに言われて見ても、相変わらずよくわからない画像が並んでるだけだった。
(これ。重複してるのがわかりますか?)
(わかりません)
(してるんです。隠してるふうもないので、恐らくは入力ミスでしょう。ここは先月稼働ばかりなんです)
(それが関係あるの?)
(あるかもしれません。ですが、同じミスでカメラが繋がってないんです。確認するには、直接見に行かないと)
(了解です)

軽い二重の扉を抜けると、騒音と閃光が待っていた。
柱もなく広々とした空間、区切るのは透明なアクリル盤だった。
その向こうで蠢くのは、夥しい数の鶏だった。
赤い鶏冠に茶色い羽毛でひたすら頭を動かしている。にもかかわらずひしめき合うケージの中には振り向けるだけのスペースもない。
(一番奥の方ですね)
イゼベルのナビに従い、間を進む。
耳には鶏達の鳴き声に混じり、機械の動く音が上からした。見上げればダクトがケージ毎にあり、そこから垂れたチューブから餌が供給されていた。
(ほぼ全自動の最新式です。人間を含め外界から隔離することでより効率的に育てられるんだそうで)
(あのマスコットは鶏のつもりだったのね)
(ジューシーチキンって言うらしいです。それで、ここにいるのがその最初のセットらしいのですが、ケージ毎に振られた番号が重複してたんです)
(それが、ここ?)
就いたケージの中に動くものはなかった。ただ床ががどす黒く、中心には黄ばんだ骨が積み上がっていた。
(鶏肉として出荷する前に抗生物質を抜く前に一週間、薬のない餌に切り替えるんです)
(それが途絶えて、飢え死にしちゃった?)
(それだけなら、ただの悲劇なのですが。そこの角を見てください)
言われて見ればアクリルの角が曲り捲れていた。そこには、ガッツリと鶏の足跡が食い込んでいた。
(大陸の方では呪術の為に毒虫等を戦わせて、共食いさせて強い個体を造っていたとデータにあります)
(それが、産まれた?)
(もっと現実的な仮説としては、極度のストレスと共食いによる薬物の凝縮から産まれたミュータント、といったところでしょうか)
(そういうのを食べてるんだ)
(まぁ、全部じゃないですよ。ここの抗生物質と筋肉増強剤は他に類のない組み合わせですし、可能性は色々です)
(でも相手は一羽だけ、だよね?)
捲れたアクリル盤の先、奥へ向かって足跡が残っていた。数は一羽分、数歩で掠れてどっちに向かったかまではわからない。
(外には出てないんだよね?)
(現状はまだですね。元々が養鶏場なので、鶏が逃げないようにちゃんと設計されてます)
(なら大丈夫ね。あとはどうする? 私たちが続けるのか、鶏の専門部門をもつか)
(私たちが続けるみたいです)
(そうなんだ)
(今封鎖が解かれました)
(出ちゃったの?)
(いえ侵入者です)
(は?)