詩のようなもの7

●幸せということ●

 

 あと少しと言うところで電車を乗り逃がした。
 遠ざかっていく電車の背中を見るといつもならば損をした気分になる、けれど今はむしろ運がいいと思う。
 それは今日が休日で友人たちとあった後の帰り道だったからだろう。
 ジャンパーの左ポケットにはまだ読み始めたばかりの薄い文庫本が入っている。
 五分をこれに使おう。
 電車を待ちながら本を読む五分間。
 その時は気がつかないが、これが幸せの正体だろう。
 そうだ。
 こういうことが幸せなのだ。
 これは後から気がつくのだ。
 幸せとはその只中にいるときは気付かない。
 後から振り返って、ああ、あれが幸せだったのかと気がつく。
 例えば夕日を待ちながら散歩する時。空の色が変わっていくのを見ながらとりとめのない思考を遊ばせるその時。
 それが幸せなのだ。それはいつも後から気づく。
 幸せの正体をつかめるのはいつも後になってからだ。
 休日のただなかにある時それが休日と思わない。休日が終わる時、あれが休日だったと気付くのだ。
 幸せの正体はいつもつかめない。 幸せは過去にしかない。
 でもそれと知れるのは今でしかない。
 だからこそ、一日一日を楽しもうと試みるのだ。いつか思い出に耽るときそれが幸いであるように。