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「パブリックエネミー」夢見るスプーン下

スクラップのジャングルジムはスカスカで楽々抜けられた。そして出たのは、ロケットの前だった。
……ロケットだと思う。
形は完全にロケットだ。だけどそれはデフォルメされた、丸みをおびた形状をしていた。表面にしても塗装しておらず、ツギハギの繋ぎ目がくっきりとわかる。しかも隙間からは黒いタールのようなものが漏れでて下に黒い水溜まりができていた。

 


(エリア、追伸です)
(帰っていいの?)
(まだです。ただ、あのスーツはもう要らないから処分しろと)
(どうやって?)
(……濡らすしか)
「我の第二ドリームに触れるなドリームなきものよ!」
いきなりスプーンは上からやって来た。腕を組んだまま太陽を逆光に、ゆっくりと降りてきて、私をロケットと挟むように降り立った。
そして右の拳を突き上げる。
「確かにこのドリームスーツには欠点はない! が、単身での宇宙突破はやはり非効率! なので更なるドリームでドリームを重ね最強省エネドリームとなる! これぞ統計学に裏付けされたエコドリームなり!!」
絶叫と共に右の拳をこちらに倒し、人差し指でこちらを指す。
「それにはうぬが邪魔だ」
いきなり声のトーンがシリアスに変わった。
そしていきなり大きくなった。
それがジェットでの急加速だと気付いた時には回避のチャンスを失っていた。
「ドリームンマッスルンパンチャー!!」
正に全力の拳をモロに食らい、真っ直ぐ真後ろにぶっ飛ばされた。
重たい機械の体が冗談みたいに後ろ向きで二回転して、ロケットに背中からは激突する。
(エリア!)
(大丈夫)
答えながら受け身も取れずに砂漠に落ちた。
「うぬ! 我がドリームに触れおったな!」
お前が殴り飛ばしたんだろ、と言い返しても意味がないのは身に染みてる。
にしても状況はこの上なく不利だ。銃撃も電撃も効かないし、それ以上は当たる気もしない。いっそのこと命乞いしてドリームに流れた方がまだ見込みがある。
それでも指令だ。人に戻りたければ、戦うしかない。
立ち上がるべく、左手を砂につく。
ぬちゃりと、指に黒のタールが付いた。すくってみると指の間からサラリと流れ出た。思ったよりもタールは弛いみたいだ。
これは、使える。
(イゼベル。確認だけど、濡らしたら脆くなるんだよね?)
(そうですが)
(わかった)
答えて立ち上がる。
右手に銃、左手にタール、背にはロケット、前には変態、やることは一つ。
「うぬ殺す!」
シンプルに叫んでスプーンが弾ける。ただし右に向かって加速し、大きくカーブを描いて突撃してくる。ロケットへの配慮だろう。だが回り道の分、対処の隙がある。
狙い、目掛けて、タールを投げつけた。
べチャリと見事顔面に命中した。
おっしゃ。
(ダメです!)
「ぬお!」
イゼベルとスプーンが同時に叫ぶ。
「闇が! 闇が!」
(脆くなるのは灰色の部分だけです)
「これが世界の終演か!!」
(それでも何発も撃たないと抜けません!)
二人の捲し立てる中でスプーンはふらつき、あらぬ方向へ高く飛んで行く。
見えてないみたいだが止まるつもりはないらしい。
これならこのまま逃げても追って来れないだろう。
と、急に曲がって加速した。
ギュィーーーンと行って、その先にロケットがある。
あ、やばい。
(エリア!)
言われる前に走り出した。
スプーンを見てる余裕はない。
スクラップのジャングルジムに飛び込み駆け抜け抜ける直前に爆音、爆風、衝撃で、今日最高高度までふっ飛ばされた。
切りもみ回転しながら砂漠を、空を、地平線を見ながら、落ちた。

全身がダメージ受けすぎて、痛みのセンサーすら壊れた。それでも奇跡的に歩行機能は無事だった為に歩いてイゼベルの元に4時間かけて戻った。
応急修理中で1時間たった頃に、指令に追伸が来た。スプーンのスーツをまたも回収せよ、とのことだ。
なのでまたも砂漠に、今度は6時間半かけて歩かされた。
それでたどり着ついたのは、本当に何にもない砂漠だった。見渡す限りの空と砂とで、夜空に光る星が綺麗だった。
正に砂漠だった。

そんな中の砂丘に、あのスーツが逆さまに刺さってた。
大分焦げてはいるが形は完全なままで、背中が割れていて、中は空だった。
辺りにスプーンの姿はなく、ただ遥か向こうまで続く足跡と、大きく砂地に刻み込まれた『あでおす』の字から死んではないと思う。……無事でもないとも思う、色んな意味で。
それで、目的のスーツは回収しないといけないのに、なぜだか着るのは禁止された。つまりは担いで帰れということだ。
今現在、指令を開始してからもうすぐ1日が経つ。こんなスーツを背負いながら日ノ出まで見てしまった。
この体は疲れないが脳は別格なので疲れる。ぶっちゃけ眠い。
(エリア、ルート外れてます)
(ごめん)
答えながら微調整する。とは言え、砂漠のルートなんかピンと来ない。むしろ眠い。
……ダメだ。なにか話してないと、歩きながら寝てしまう。
(ねぇイゼベル)
(まだ半分です)
(そうじゃなくてさ。今回の指令、アレで良かったのかなって?)
(回収が目的です。行方不明のスプーンに対しては不要かと)
(そうじゃなくて。自分で言うのもあれだけど、私、何もできてなかったよね?)
(過程は問題ではなく指令をクリアすることだけが問題です。なら、今回の指令については問題ないです)
(でもさ、あのスプーンが自爆したから、助かったようなもんだし)
(……反省会は戻ってからと思ったのですが)
しまった、地雷踏んだみたいだ。
(エリア、今回は酷すぎます。考えなしに突撃して無意味な電撃や銃撃を加えたり、性能的には回避できた筈の攻撃もモロに受けて。それに私が弱点を伝えたのに十分に生かしきれてませんでしたし、それに)
(それを言うならイゼベル)
やられっぱなしは面白くないので口答えしてみる。
(事前にあのスーツの情報はあったんだから、弱点の水用意しておくべきじゃ?)
(今回はそのスーツの回収が目的なのですから、壊すものを持ち込んでどうするんですか)
あ、そういえばそうだった。
(それに指令が変わった後でも、相手が生身で砂漠に潜伏してる状況を考えるなら、その近くに生活用品、水があると考えられます。それを基準に行動すべきなのに何ですかアレは。たまたまオイルがあったから良かったものの、なかったらどうするつもりだったんですか?)
眠い上にイゼベルの正論の説教モードは、眠い。
(エリア聞いてます?)
(はーい)
(はいは1回です)
……ん?
(………たいへんよろしい。エリア笑いすぎです)